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富士山の秘境
山中湖は、霊峰富士の子供のような富士五湖の東端、標高986mにあります。
むかし中央線で夕方吉祥寺の下宿に帰るとき、西の丹沢山の上に、夕焼けに燃える真っ赤な空をバックに、ちっ ちゃな黒のシルエットの富士をよく見かけました。
誰かが「富士山！」とつぶやくと、みんながそちらを見つめます。
不思議ですが、それほど富士は私たちを引きつけてやまない魅力があるのです。
ここでは、そんな富士の知られざる名所や、わざわざお出かけいただきましても値打ちある場、住んでるからこ そ分かる名所名店をご紹介いたします。
今後順に、吉田口、須走口、富士宮口の秘境をご案内していきます。
まずは、吉田口の秘境をお届けいたします。
■ 泉瑞
 富士の名水の第一位。
富士の伏流水は富士山麓に80年を経て沸き立つといわれます。
ペンションの蛇口から出る水が、80年の時を経て今、日の目を見たと思うと、水を含む大地天空の壮大な生々流転に思いが至り、水一滴に何ともいえない愛おしさがこみ上げてきます。
この名泉は、源頼朝が富士山北麓に雄大な巻狩りを行なった際、道に迷い渇きに苦しむ勢子のため、 神に祈りつつ大地に矢を突きたてたところ、水晶のように澄みきった水が湧き出したところから「泉瑞（せんずい）」と謂われています。
富士浅間神社の水もここから引かれています。
富士吉田浅間神社から吉田口登山道を中の茶屋に向かう と右に泉瑞という小さな案内板があり、10分車ではいると突き当たりにあります。
五臓六腑にしみ渡る甘露です。あたりは野鳥のさえずりが絶えることがない。是非、森の昼寝も楽しんでください。
■ 雁の穴
 「泉瑞」の手前を右に曲がるとやがて天然記念物の「雁の穴」に至ります。富士噴火の溶岩流によって作られた洞窟で、すぐ横に小噴火口もあり、地底から吹き上げてくる風はひやっとして引き込まれそうな感じで、大地の生き物としての迫力はすごい。
洞窟入り口には、夏非常に珍しい金色に輝くひかりごけが見られ、貴重なコウモリの「子持ちキクガシラ」が生息している。 山菜の宝庫への入り口にようこそ、あと少し歩けば、夏には何キロをも埋め尽くす壮麗なヤナギランの大群落の秘密の花園に至ります。
■ 中の茶屋横、から松林とフジ桜の大群落
古来、富士登山メイン道の入り口、中の茶屋一合目、その横には広大なから松林が続きます。
カラ松は、高原を象徴する愛しい木で、特別な風情を持っています。
春、枝先をつつむ霧さえ染めてしまう蜻蛉の羽の翡翠色の新緑。
梅雨時、数えられない葉先にすべて水晶の玉のような 雨粒をつけてまるで雨の神様が姿を現したような不思議な姿。
 夏、樹頭を吹きすぎる風の音は、近くに目を見張る様なすばらしい幻の滝があるかと思わせる。
秋、幹の黒と金の黄葉のコントラストは絶妙の配色のアート、風の一拭きで地をすべて金に染める。
冬、この季節こそカラ松の本領を示す。
すっくと天に 向かう円錐の立ち姿を繊細な小枝のレースが縁取る、その空に浮き立つ黒のシルエットは、バリの至宝、繊細きわまる影絵を思わせる。その雪姿は、天からこぼれ落ち
た聖なるお宮だ。
このから松林の下には二万本の野生のフジ桜が生きている。
この想像を是する大群落が、4月下旬一斉に花をつける様は、桃ならぬ桜源郷！大気すべてを花色に染めてしまう。
５ミリ程の小さな花はすべて恥じらう無垢な乙女のようにうつむいて咲く。
その清楚な姿は花の極致に至る。私はこの花に出会うために一年を生きる。
■ 吉田胎内洞窟
このフジ桜の花のエーテルの中、小道を行くと巨岩の崖を割るかのように珍しい東国三つ葉ツツジの群落が明るいピンクの花を無数につけている。
この門をくぐると富士のご神体、木花咲耶姫の奥の院「吉田胎内」です。
古くは富士は今と違って噴火も生々しく、富士の上は火口のマグマを反映して真っ赤だったといいます。
あれだけの高さの、あれだけの姿をした山が真っ赤に燃えてるのを見たとしたらとても正気で登れる山ではないですね。
ところが、やむにやまれぬ衝動に駆られて登る決意をする人も、人のなかにはいるのです。
とても俗世の気持ちで登れるわけもなく、人は厳しい入山の行をこのような場でしたといいます。
古来のそのような宿命性を背負った、ギリシャ悲劇や、シェークスピア劇に出てきそうな人のことが思われます。
いつか、洞窟の天上にいとも美しい釣り鐘型の小鳥の巣を見たことがありました。
あれはいったい誰の宝物だったんでしょう。
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