旧ソ連の作家、イリヤ・エレンブルグの書いた『人間 都市 歳月』 は、古今東西、世界の回想録の傑作中の傑作として知られますが、あふれるよ
うな人々の命への慈しみにつつまれた本です。 特に、第二次世界大戦の端緒となった「スペイン市民戦争」の中を生きた、あの ロルカや、マチャード、マルローや、ヘミングウェー、名も残さぬ多くの人々の 悲しみや、苦悩、そして喜び、人々の生と死、それは彼の記憶の中の出来事とな りながらも、目前の出来事よりももっと強烈なリアリティーを持って、彼の前に立ち現れます。人々への懐かしさやいとおしさの中に、彼の命がとけていきます。 この、世界のどこにも現象しない存在、私たちの心の中にしか生きられない愛しい生き物達。 私たちの心は、事象の系を遠く離れ、独自の生命圏を創るのです。 私も、このモーツァルトの場で、人生の場で、また文学や、映画や、音楽の中でもたくさんの方にお目にかかり、たくさんのものを戴いて、遠い道のりをここまで参りました。 訪れてくださる皆さまが、この場で何かを感じてくださるとすれば、それは私ではなく、この場を訪れてくださった多くの方の命の残り香の集合体、そのエーテルのようなものだと思います。 お人との交流の中からくみ取るものには、尽きせぬものがあるはずです。 皆さまにも、きっと良き出会いを感じてくださるものと思い、僭越ながらここにご紹介させていただきます。 |