細野 一臣 / 音楽家 プロデューサー ある時、細野さんからバリ島のお土産に、田んぼの「スズメ追い」頂いたことがあった。大きな風車が回す竹片が、海風の息に合わせて、三つの竹ずつをリズミカルに打つ。こんな気持ちのいい音じゃ、とてもじゃないがお米とスズメが宴をするよ。 ご持参のズタ袋から、訳の分らない素敵なものがわんさか出てきた。世界中のそれぞれのの大地から芽生えた草木のような民族楽器が紡ぎ出す音楽は、古代より時が手間暇かけて熟成させた、大地と人の祝祭の神話『主なるる神は、土のちりで人を造り……』を教えている。見知らぬ地の、見知らぬ人々の、大地と共に為す見知らぬ営みから生まれたこれらの音が、こんなに懐かしく心に響いてくるとは、心も大地と同じく、時というハタでおられ、様々の美しい絵柄のちりばめられた、たった一枚の世界を覆う布のようなものなんですね。音という色砂を使って、完成すればたちまちのうちに消されてしまう秘境のラマ僧が描く曼陀羅のように、音楽は静寂の大空の中に、繊細きわまりないアラベスクの香煙のように立ち上り溶けていった。 「P.モーツァルトは、世界の素晴らしものが集まる、不思議な場所です。」 なんて書いてくださるが、それは細野さん、あなたの頭の中身の方です。 |